DAY 1 – まだ見ぬ海外へ

飛行機というものには何度か乗ったことがある。
物心つく頃に家族と行った長崎旅行。
高校の修学旅行は鹿児島へ。
それぞれ行きと帰り4回は乗っていることになるが、どういうわけか少しも思い出せない。
搭乗シーンや空港の中の景色というものが、すっぽりと記憶から抜け落ちている。
今回生まれて初めて海外に行くわけだが、出入国の手続きとはどのようなものか。
なにか変わった質問をされて、下手なことを言えば強制送還されるのではないか。
そもそもギターは安全に運んでもらえるのか。
大事なことだが見当もつかない。
とはいえ、ここは日本。
わからないまま行っても誰かが誘導してくれるだろう。
ギターは大型の預入荷物として、旅行鞄とは別の受付を案内された。
Fragileという赤いシールを貼ってもらえるかと聞いてみたが、
「フィンエアーは荷物を大事に扱うので、貼らなくて大丈夫です。」と断られてしまった。
あのシールへの憧れは次回に持ち越すこととする。
搭乗手続きは滞りなく進み、筆箱に紛れていたカッターを没収されただけでなんてことなく飛行機に乗れた。
座席は3列シートの真ん中。
飛行機の記憶がほとんどないわけだから、離陸する時にはさぞかし感動するかと期待していたが、それどころではない。
両隣は外国人で、よせばいいのに話しかけてくる。
英語はなんとなくしかわからない。何度も聴き返しながら会話を進める。
なんとかかんとか返事をしているうちに呆気なく離陸。
どうにも間が悪い。
とは言え今回の旅の目的、それは英語しか通じない場所に身を置いて無理やり自らの英語力をこじ開けることにある。
さながら少年ジャンプ主人公のごとく、わけのわからない異空間や過酷な島に籠って、生き残ったらすごく強くなっている修行編のイメージである。
故に搭乗直後から両隣が外国人とは、むしろ好都合。
公開時期が延期となって、日本では観れないと諦めていた『John Wick: Chapter4』も機内で観られる。
これももちろん日本語字幕なしの完全イングリッシュタイムだ。
隣席の外国人がお茶をこぼしてブランケットがダメになるハプニングに見舞われたが、
そのことを伝えたのに最後まで新しいブランケットをもらえないハプニングにも見舞われたが、
なんやかんやで乗り継ぎ場所のヘルシンキ空港に到着する。
海外というのは、きっと日本とはまったく違う匂いがするのだろう。
そう思っていたので、空港に降り立つと胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
始めての海外は、なんだかIKEAの香りがした。さすが北欧。
ヘルシンキは乗り換えだけだが、空港の中を歩いてみれば売店やカフェがあって、なによりまず驚いたのはコーラの値段。
€3ということは、およそ480円。
海外は物価が高いというが、およそ3倍とは驚いた。
きっとこれが適正価格なのだろう。
日本は物を適正価格で売らないから給料が上がらないのだ。
などと、海外知ってる人風な視点から我が国を見下ろすことで器小さめな優越感を楽しむ。
ヘルシンキからダブリン行きの飛行機、ここでも手荷物検査に引っかかる。
日焼け止めクリームがダメだったらしい。
次からは預入荷物に入れなさいと北欧美女に窘められるも、没収はされなかった。
再び大いに海外を感じる。さすが北欧。
今度は窓際の席に座り、やっと飛行機の飛行機たる楽しみに没頭できた。
離陸時の加速、地面を離れて宙に浮かぶ感触。
外は雨、それでも雲を抜ける直前には遠くの地平に地球の丸みを再確認できた。
雲を抜ければ、地上とは打って変わってまっさらな青空。
飛行機とは良いものだ。
良い思いをした。
この旅はきっと良きものになる。
爽やかにそう思っていた初日はここまでとする。
初めての海外。
ダブリン空港にて、強烈な海外の洗礼を受けることとなる。