DAY 8 – 一軒目の内見

昨日はひどい目にあった。
思い返せば自分にも悪いところがある。
人任せにしてしまったが、乗る電車くらい自ら調べる手立てはあったはずだ。
思い返せばホームの奥の方へ歩いて行ったとき、電車の行先表のようなものが横目に見えた気がする。
なので、今日はなんとかなるだろう。
なんとかするのだと決めて家を出る。
さて、昨日Leap Cardが故障した様子なので、近所のガソリンスタンドに行って新しいものを購入する。
Leap Cardは提携店で販売とトップアップをしてくれる。
新しいカードを手に入れて、バスに乗って駅へと向かう。
嫌な思い出が脳裏に押し寄せてくる気配を抑えつけながら。
新しいリープカードなら改札横の券売機でトップアップできるのだろうか。
ふと思い立ったので試してみる。
すると、昨日と全く同じエラー表記。トップアップはできなかった。
なるほど、これは仕様なのだとわかった。
つまり、昨日故障したと思われたカードは、実は壊れていない。
一枚5ユーロもするカード。失くしたときの保険として大事に取っておくこととする。
階段を昇りホームに着くと、その奥の方を目指して歩く。
どこかに行先表があるはずだと探しながら。
そして見つけた。
後発の電車がいつ来るかを示す電光掲示板は、ホームに上がってすぐの場所にある。
行先表はそこからホームの奥へ。こんなに離れているとは不親切だ。
二度三度とホームを往復し、20分後に来ると書かれた電車が乗るべき電車だと理解する。
一本目の電車をやりすごし、二本目、今度は間違えずに乗ることができた。
アイルランドに来てからというもの、とても重宝しているのがiPhoneに入っているマップアプリ。
住所を入力し、移動方法はTransitを選択。
すると電車やバスの道順をしっかりと示してくれる。
バスについては乗るバスの番号まで示してくれるが、どういうわけか電車はどこ行きの電車かという最も大事な情報を示してくれない。
だから昨日のような目に遭ったわけだが。
マップの指定する駅について、そこからマップの通りに歩いていく。
なぜだろう、獣道に来た。
地面は舗装されておらず、石畳のようなものがデコボコと置かれている。
通り雨の多いアイルランド、土と泥の混じる湿った道沿いには草木が生い茂っている。
ちょっと見下ろせば川。
しかし柵などはない。
こんなところを夜歩いたら滑落してひどい目に遭いそうだ。
できればギターケースを抱えて歩きたくはない。
そんな道を10分も歩くと、やっと舗装された道にでた。
家主との待ち合わせまでには時間があったので、近隣の状況を知るために散歩してみる。
道沿いには学校があり、子どもたちと保護者らしき人々が歩いている。
なんとものどかで、品の良い住宅街だ。
家から5分と歩かないところに、スーパーや商店が立ち並び、生活には困らなそうだ。
建物を見れば音楽教室もあるではないか。
ここに行けばアイリッシュギターも学べるだろうか、あわよくば仕事をくれないものかとあれこれ思いを巡らす。
マップアプリを見れば、少し離れたところにショッピングモールもあるらしい。
住みやすそうではないか。
家の前で待っていると家主が来た。
インド人の男性で、気さくに家の中へ案内される。
写真で見た通りの綺麗な家だったが、二つ気にかかる。
部屋の鍵はちゃんとかかるか、確認をお願いすると、故障しているようで手持ちの鍵ではダメそうだという。
そして、募集サイトには既に一人住んでいるとあったが、来てみれば誰も住んでいない。
アイルランドはシェアハウスが当たり前という文化であり、今回見に来た家もそうなのだが、すでに誰かが住んでいるのと、誰も住んでいないのとでは話が違ってくる。
誰か住んでいれば、その家のルールというようなものがすでに出来上がっているだろうが、自分が一人目となると、それを後からの入居者たちと作っていかなければならない。
そんなのは面倒だ。
ただでさえ人と関わるのは得意でないのに、異文化の人々とこれからどうしていこうかと話し合うなど、考えられない。
願わくば、暗黙の了解だとしても、すでにその雰囲気がある程度固まっている家に入居したい。
もう一つ懸念しなければならないのは、詐欺だ。
内見をし、敷金を支払ったところで鍵が渡されず、領収書もないため、そのままなかったことにされてしまうというような詐欺があるという。
そういうことを疑ってかかるなら、誰も住んでいない家はそういった仕事に好都合だろう。
ここでの自分はあくまでも外国人。
慎重にならなければならない。
確かに良さそうな家だったが、この場では契約せず、考える時間をもらうことにした。
家主はおそらく詐欺師などではない。
とても気さくで穏やかだ。
家を貸すなら日本人が良いと思っていた。
だから、数日キープしておくからよく考えてみてほしい。
そう言っていた。
この翌日にも他の人たちが内見に来るらしい。
その結果は是非教えてくれるようにとお願いして家を後にした。
先ほどマップでみたショッピングモールが気になったので、歩いて行ってみたが片道30分もかかった。
異国の知らない風景、ただ歩くのも退屈などしないが、やはり疲れた感がある。
ところで、我がギターの消息だが
前日の夕方の段階でダブリン空港に届いていることがAirtagの情報でわかっていた。
なので、この日のうちには受け取りの連絡も来るかと期待したが、一切連絡がない。
海外の空港とはこういうものなのだろうか。